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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和32年(ネ)60号 判決 1960年5月30日

控訴人 国

訴訟代理人 老田実人 外四名

被控訴人 同和建設株式会社 外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人石川県商工信用組合は控訴人に対し金二百四十万円及びこれに対する昭和二十九年六月八日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、

被控訴人同和建設産業株式会社は被控訴人石川県商工信用組合に対する預金債権金二百四十万円の取立権のないことを確認する。

被控訴人石川県商工信用組合は被控訴人同和建設産業株式会社に対し金二百四十万円に対する昭和二十九年四月六日より同年六月五日まで年六分の割合による金員を支払え。

被控訴人同和建設産業株式会社の被控訴人石川県商工信用組合に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用中控訴人と被控訴人石川県商工信用組合との間に生じた分は第一、二審を通じて同被控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人同和建設産業株式会社との間に生じた分は第一、二審を通じて同被控訴人の負担とし、被控訴人同和建設産業株式会社と被控訴人石川県商工信用組合との間に生じた分は第一、二審を通じて被控訴人同和建設産業株式会社の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人石川県商工信用組合は控訴人に対し金二百四十万円及びこれに対する昭和二十九年六月八日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、被控訴人同和建設産業株式会社は被控訴人石川県商工信用組合に対する預金債権金二百四十万円の取立権のないことを確認する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人両名の負担とする旨の判決を求め、被控訴人同和建設産業株式会社代理人は、原判決を取消す、被控訴人石川県商工信用組合は被控訴人同和建設産業株式会社に対し金二百四十万円及びこれに対する昭和二十九年四月六日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、控訴人の被控訴人同和建設産業株式会社に対する請求を棄却する。訴訟費は第一、二審とも被控訴人石川県商工信用組合、控訴人両名の負担とする、旨の判決を求め、被控訴人石川県商工信用組合代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上並びに法律上の陳述は、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一、控訴代理人は、

(一)  被控訴人石川県商工信用組合に対する主張として

(1)  被控訴人同和建設産業株式会社(以下単に被控訴会社と略称する)が、被控訴人石川県商工信用組合(以下単に被控訴組合と略称する)に預金した金二百四十万円は昭和二十九年三月頃被控訴会社が訴外三興物産株式会社(以下単に三興物産と略称する)に対する鉄筋材料購入代金の確実な支払の方法としてその所有の訴外株式会社富士銀行富山支店振出の受取人三興物産なる金二百四十万円の小切手を便宜被控訴組合に寄託し、被控訴組合で取立て被控訴会社名義の預金となし、三興物産から被控訴会社宛に資材の搬入がある毎に被控訴会社が小切手を振出す特約のもとに預金したものである。そのような約をしたのは三興物産と取引のある被控訴組合が右三興物産の信用を保証したが、被控訴会社は、三興物産の仕事の実績や信用状況が不明であるため材料の入手前に小切手を振出す危険を考慮し、これが支払資金として被控訴会社の預金口座を設け、資材の搬入と同時に被控訴会社が小切手を振出し決済をする特約のもとにしたものである。

(2)  被控訴会社が当座預金をするのに右のような記名式小切手を振出すに至つたのは次のような事情によるものである。

すなわち、被控訴会社は昭和二十九年一月五日訴外日本専売公社金沢地方局との間に、同地方局食堂新設その他の工事として公共工事の請負契約を締結したが、同契約において、請負人被控訴会社は公共工事の前払金保証事業に関する法律第二条第四号に該当する保証事業会社により同条第二項に規定する前払金の保証を受け、その保証書を発注者日本専売公社金沢地方局に提出したときは、その工事の材料費、労務費、損料、動力費、支払運賃、修繕費及び仮設費として必要な経費の前払を請求することができると定めた。そこで、被控訴会社は公共工事の前払金保証事業に関する法律第二条第四号に規定する訴外東日本建設業保証株式会社(以下保証会社とと略称する)との間に同年同月十三日保証契約を締結し、該保証証書を右日本専売公社金沢地方局に提供し前払金千三百万円を受領したが、同保証約款によれば、「保証契約者(被控訴会社)は前払金を受領したときは遅滞なくその前払金を保証会社が前払金の使途の監査等を委託した銀行のうち保証契約者の選定する銀行に別口普通預金として預け入れなければならない」旨定められてあるので、この約定により右前払金を訴外株式会社富士銀行富山支店の別口預金に預け入れた。ところで、その払いもどしについては、前示保証約款において、「保証契約者は預託銀行に適正な使途に関する資料を提出して、その確認を受けなければ、前項の預金の払いもどしを受けることができない」と定められてあるので、この約定の趣旨に従う、実務上の処理としては前払金の預託者である被控訴会社が預託銀行に対し前払金使途内訳明細書を提出して預託を為し、その払出に当つては預託金払出依頼書を作成し保証会社の承認印を得て払出を預託銀行に依頼することゝなるのである。そして右依頼書に支払先に対する支払方法を指定するのであるが、保証会社と株式会社富士銀行との間に別途業務委託契約が締結され、該契約によれば、「預託金の払出に当つては、現金支払に代え、当座預金に振替えるか又は支払先宛の記名式銀行振出小切手を交付するものとする、但し労務費又は経費等の支払にあてる場合には現金で支払うことができる」旨定められているので、被控訴会社としては前叙の保証契約及び委託契約に従つて預託金の払出請求をしなければならないのである。

本件では、材料費の購入のために預託金を払出す場合であり、かつ被控訴会社は材料の購入先を三興物産とするつもりであつたので、前記保証契約に従つて、預託者の支払先を三興物産として、預託銀行の株式会社富士銀行富山支店に対し預託金払出依頼書を提出して前払金の払出を請求した。株式会社富士銀行富山支店は右払出依頼の趣旨に応じて材料購入先の三興物産を受取人とした前記小切手を発行し被控訴会社に交付した次第である。そしてこのような記名式小切手にした所以のものは、単に前記公共工事の前払金保証事業に関する法律により保証会社が被控訴会社の前払金の保証をしている関係で前払金の使途を無制限にすることなく公共工事のために適正に使用されているか否かを監査する便宜のために仕組まれたものに過ぎない。従つてこの小切手の所有権は被控訴会社の所有であることは多言を要しないところである。

(3)  つぎに、被控訴会社が本件小切手に三興物産の裏書を求めてこれを現金化する手続を講じなかつたのは、被控訴組合の代表理事で副組合長である訴外中宮辰及び同組合の事務員岡田与三郎が三興物産の代理人であるからその裏書を得ることが容易であり、同人らは右小切手をそのまゝ被控訴会社の預金として受け入れることを承諾して受領したからである。このように右両名が本件小切手に三興物産の裏書、譲渡が必要であることを十分認識しながら、他面三興物産の代理人であることからその裏書譲渡が極めて容易であるため、該小切手に現金同等の価値を認めて、これを被控訴会社の当座預金とすることを承諾し、該小切手と引換に被控訴会社に当座勘定振込票、当座勘定元帳写、小切手帳(甲第二ないし第四号証)を交付した以上、右のような記名式小切手による預金契約も現金による預金契約と同様に有効に成立するものというべきである。

(4)  仮りに名宛人の裏書譲渡のない本件記名式小切手はそのまゝでは名宛人以外のものゝ預金として受け入れることができないものとしても、被控訴会社は被控訴組合との間において被控訴組合が右小切手に三興物産の裏書を得てその取立のうえ、被控訴会社の預金とすることを約定していたものであるから被控訴組合が三興物産の裏書を得てこれを取立てた昭和二十九年三月十日に右約定の条件が成就し、そのとき本件当座預金は成立しているものである。

(5)  さらに予備的主張としては被控訴会社の主張する後記二(一)(3) の陳述と同様であるからこれを援用する。

(6)  被控訴組合の後記三(二)、(三)の主張事実中控訴人の従来の主張に反する部分はすべてこれを否認する。

被控訴会社と被控訴組合との本件訴訟は前者の控訴期間徒過により第一審における敗訴の判決が確定した旨の主張並びに右判決の確定を理由に控訴人の債権差押は無効である旨の主張に対してはこの点に関する控訴人の見解は被控訴会社の主張する後記二(一)(1) の陳述と同様であるからこれを援用し、更に次のように付言する。すなわち、三面訴訟においては、三者それぞれが相対立する関係であり第一審の原告であつた同和建設産業株式会社と第一審で独立当事者参加をした控訴人との間には必要的共同訴訟における連合的関係はないから控訴しなかつた同和建設産業株式会社は当審においては当然被控訴人の地位に立つものと解する。しかしいずれにしてもこの地位の区別は三面訴訟の実質面に影響を与えるものでないと解する。

(二)  被控訴会社に対する主張として

控訴人は原審において主張したように国税徴収法第二十三条の一第二項により被控訴会社に代位し本件預金債権について、その取立権を取得したので、同会社はその給付請求権がないのにかわらず依然その請求権あるものとしてその支払を求めているので同会社に対し右預金債権の取立権のないことの確認を求める。

と述べ、

二、被控訴会社代理人は

(一)  被控訴組合に対する主張として、

(1)  訴訟中民事訴訟法第七十一条の参加が行われた場合の法律関係については従来の原被告と参加人の三者間の紛争を一挙に解決すべき三面訴訟と解すべきである。この場合第一審において敗訴した当事者のうち何れか一方が控訴申立をしたときは同じく敗訴した他の一方の為めにもその効力を生じ三個の当事者間に存する争は控訴審に移審され控訴裁判所の審理の対象となる。この点に関する本件と極似事案についての昭和十五年十二月二十四日大審院判決民判集一九巻二四号二四〇二頁所載を援用する。

この三面訴訟がそのまゝ控訴審に移審される結果、第一審同様第三者のうち何れかの一者でも他の二者を相手として攻撃防禦の訴訟行為を為しうることは当然である。

本件の場合第一審で敗訴した原告は独立して控訴申立をしていないが、参加人の控訴申立が原告である同和建設産業株式会社のためにもその効力を生じ原告は控訴人たるの地位を取得したものである。従つて同和建設産業株式会社は形式上の表示にかゝわらず控訴人として原審判決の取消を求め原審における請求の趣旨を当審においても主張しうるものである。この場合若し形式上の表示に拘泥して附帯控訴をなすとすれば結局無用の手続を為すことゝなるわけである。

(2)  本件の金二百四十万円の小切手は三興物産から将来買付ける鋼材代金支払基金として使用する目的で被控訴会社が所有していたものであるが、この小切手を被控訴組合(当時の平和信用組合)に交付したのは以上の目的を以て被控訴組合に対しその取立を委任し、その取立金を被控訴会社の預金とするために托したものであつて被控訴組合も亦右趣旨を知悉しこれを承諾したものである。この小切手は前記三興物産を受取人とする記名式であつたが、被控訴組合の代表理事である訴外中宮、と同貸付係である訴外岡田の両名が被控訴会社との前記取引につき三興物産の代理人として甲第一号証の一、二の契約を結び且つその会社名のゴム印及び社印を保管し、これを使用しうる状態にあつたので事実上は無記名小切手と同様に取扱うことができたので右小切手は受取ると同時に甲第二ないし第四号証を作成して被控訴会社に交付したのである。しかもこの小切手は支払われて訴外三井銀行の平和信用組合口座に入金になつたのであるから甲第二ないし第四号証の成立交付のときにおいて預金関係が有効に成立したものである。被控訴組合が右取立金を被控訴会社の口座に記入しなかつたとしても、右は単にその組合内部事務上のできごとにすぎず預金者の関するところではない。

(3)  仮りに右取立金が現実に被控訴会社の預金口座に入金記帳されなかつたとして、その理由で本件預金債権が成立しなかつたものとするならば、その取立金は委任事務の処理に当つて受任者が入手した金銭であるから被控訴組合はこれを委任者である被控訴会社に引渡す義務がある。

よつて被控訴会社は予備的主張としで受任者である被控訴組合に対し委任事務上受取つた右金銭の引渡を請求するものである。

(4)  控訴人主張の前掲一(一)(1) ないし(4) の陳述中被控訴会社の従来の主張に牴触しない部分を援用する。

(5)  被控訴組合の後記三(二)(三)の主張事実中被控訴会社の従来の主張に反する部分はすべてこれを否認する。

(二)  控訴人に対する主張として、

(1)  控訴人主張の前掲一(二)の主張事実中滞納税金により本件債権の差押を受けたことはこれを認めるが、その余の事実はこれを争う。

(2)  控訴人主張の前掲一(一)(1) ないし(4) の主張事実中被控訴会社の従前の主張に反する部分はこれを否認し、従前の主張に抵触しない部分は全部これを認める。

と述べ

三、被控訴組合代理人は

(一)  控訴人及び被控訴会社の前掲各主張事実中被控訴組合の従来の主張に反する部分はすべてこれを否認する。

(二)  控訴人は本件預金債権を自己の権利であると主張するものでなく、只国税徴収法第二十三条の一第二項によつて代位するに過ぎない。そして、同条第二項の「代位」は政府が被差押者に代つて取立をなしうるという趣旨であつて、政府がその債権を取得する意味ではない(国税庁長官通達-国税徴収法逐条通達第二十三条の一関係二二、二四、)。ところで、控訴人は民事訴訟法第七十一条前段の「訴訟の結果によつて権利を害せらるべきことを主張する」ものとしての参加であつて同条後段の訴訟の日的を自己の権利であるとしての参加ではない。そして、同法第七十一条の参加には同法第六十二条の準用があるが、その準用の範囲は独立参加の性質と内容によつて一定の制限あるものと言わなければならない。訴訟の目的を自己の権利であると主張した参加の場合には原被告参加人の三者間相互に矛盾のない判決を下す必要もあるから民事訴訟法第六十二条の準用により一人の上訴が他に効力を生ずるとして然るべき場合もあると考えられる(被控訴会社援用の判例はこの場合の判例である)が、訴訟の結果によつて権利が害せられる場合の参加においては第一審で敗訴した当事者のうち一人の控訴が他の当事者の控訴たる効力を有せしめる必要なく、控訴しない当事者間の判決は自己の控訴期間の経過とともに確定するに至るのである。(東京控訴院昭和九年十月二十四日判決)。本件の場合は後者の場合に該当するものであつて、原告である被控訴会社と被告である被控訴組合との間においては控訴期間の経過により判決は既に確定しているのである。そして前叙のように控訴人は被控訴会社に対する差押債権者の立場で単に被控訴会社の有する権利を取立てうるに過ぎないのであるから、被控訴会社と被控訴組合との間にその債権が始めから存在しないとの判決が確定したとすれば差押債権者である控訴人としてはその運命を甘受せざるを得ないのである。

控訴人は第一審においてその請求の趣旨として被告である被控訴組合に金員の給付を求めていたが、原告である被控訴会社に対しては請求の趣旨を欠いていた。尤も訴訟費用について原告である被控訴会社への請求を為していたが、訴訟費用のみの判決を求めることは不適法である。原判決は原告である被控訴会社及び参加人である控訴人の被控訴組合への請求を何れも棄却したが、控訴人は自己に対し勝訴しない原告である被控訴会社に対し控訴することは許されないので、本件控訴がたとい被控訴会社に対して控訴する趣旨であつてもその控訴は不適法である。

叙上のように控訴人の控訴は結局無益であつて、被控訴組合は被控訴会社と被控訴組合(平和信用組合)との間の判決は既に確定したこと、従て目的である債権の不存在も亦確定されたことをともに有効に主張しうるものである。

(三)  被控訴会社は昭和二十九年三月上旬訴外株式会社富士銀行富山支店へ支払先を三興物産と指定して預託金払出請求書を提出し、受取人を三興物産とする額面金二百四十万円の小切手を同銀行から受取つている。これが本件の小切手である。この小切手は被控訴会社から三興物産へ鋼材代金の前払金として渡されたものである。

控訴人の認めるように預託銀行から払出す際労務賃以外は支払先(本件では三興物産)の当座預金口座へ払込むか、または支払先を受取人とする記名式小切手を交付することになつていたもので、これはその払出金額を工事材料の提供者(本件では三興物産)へ直接交付する立前ということである。従つて、この小切手は被控訴会社の権利に属すべきものでなく、あくまでも三興物産の権利として三興物産へ交付すべき筋合のものである。そしてこの小切手は被控訴組合(当時の平和信用組合)階上て被控訴会社から三興物産の代理人である訴外中宮、同岡田へ交付されたが、この時三興物産は右小切手の完全な所持人となり、小切手上の権利の移転を受けたものである。前述のように右小切手は三興物産を受取人とする記名式であり、発行者訴外株式会社富士銀行富山支店はこの小切手が三興物産へ交付されることを期待して振出しているのであるから三興物産へ交付されたことは当然のことである。若しこれが被控訴会社の手に残るとか、或いは直接第三者の手に渡ることがあつたとすればそれは預託金払出の趣旨に反し関係者の期待を裏切るものである。

同年三月九日被控訴組合は三興物産から右小切手の取立を委任され訴外三井銀行を通じて訴外株式会社富士銀行富山支店から同月十一日右金二百四十万円を受取つているが、この金は三興物産へ引渡すべきものであるからそのまゝ被控訴組合の三興物産に対する当座預金口座へ預入れられ、その後三興物産は逐次これを払出したものである。

被控訴会社は甲第二、三号証を以てその日付の昭和二十九年三月八日被控訴組合へ金二百四十万円を預入れたと主張しているが、このような事実はない。右小切手を訴外中宮、同岡田へ交付したことを以て被控訴組合へ預入れたものとすることのできないことは前述により明らかである。甲第二、三号証は右岡田が被控訴組合の当座預金事務担当者訴外前田進に被控訴会社の口座を作り金二百四十万円の入金をした帳面を作つて持つて来いと言つたことに基いて右前田が現実の入金を見なかつたが、やがて入金になるだろうと信じて予じめ甲第二、三号証を作成して右岡田に渡したものである。しかし入金はついになかつたものである。

また右中宮、岡田が三興物産の代理人として被控訴会社から小切手を受取つて後これを更に被控訴会社へ裏書して交付ないしは譲渡したり、または取立てた現金を被控訴会社へ譲渡したというようなことは何もないしまたそのような合意をしたこともない。従つて被控訴会社は右小切手或いは小切手金の権利者となり得なかつたものであるから被控訴組合へ預入れするということもあり得ないのである。

更に控訴人並びに被控訴会社は被控訴会社の名を以て被控訴組合に預入れし三興物産から鋼材の納入検収を見た上で小切手で順次三興物産へ支払う約束であつたと主張しているが、被控訴会社はその後三興物産から鉄材を相当量受取つているのに全然小切手を発行していはいし、三興物産の方も支払を請求していないことに徴し右主張が否定されるべきであることが明らかである。

以上の次第で被控訴会社が金二百四十万円の当座預金ありとする主張は失当である。

と述べた。

立証<省略>

理由

先ず、被控訴組合は被控訴会社と被控訴組合との本件訴訟が被控訴会社の控訴期間徒過により第一審における被控訴会社敗訴の判決が確定した旨並びに右判決の確定により控訴人の債権差押は無効無益に帰した旨主張するのでこれについて判断する。

本件記録を調査すれば、控訴人は被控訴会社を原告、被控訴組合を被告とする金沢地方裁判所昭和二九年(ワ)第二七一号預ケ金返還請求事件(原告の請求は預金債権金二百四十万円及びこれに対する昭和二十九年四月六日以降完済迄年六分の割合による遅延損害金)の繋属中、当事者参加申出書を以て自らを主参加原告と表示し且つ本件訴訟物の全価額に相応する額の印紙を貼用して参加し、原告主張の預金債権を国税徴収法第二十三条の一により差押えたことを主張して被告である被控訴組合に対し右預金債権の支払を請求したが、原告である被控訴会社に対しては訴訟費用の一部負担以外に何等の請求をしなかつたこと、原裁判所は原告(被控訴会社以下同じ)対被告(被控訴組合以下同じ)間、参加人(控訴人以下同じ)対被告間に存する係争につき一個の判決を以て、原告並びに参加人敗訴の言渡を為し、これに対し参加人が原審原告である被控訴会社並びに原審被告である被控訴組合をそれぞれ被控訴人と表示して控訴を申立て、被控訴組合に対してのみの請求をしたが、当審第四回口頭弁論期日において被控訴会社に対して新に本件預金債権の取立権のないことの確認の請求を追加したこと、他方被控訴会社は控訴期間中に控訴の提起をしなかつたが、当審第三回口頭弁論期日において前掲控訴趣旨のような請求をしたことが認められる。

ところで、民事訴訟法第七十一条の訴訟参加は本来からいえば繋属中の訴訟の原告と被告の双方を参加被告として、右両名に対して参加人独自の請求をするために訴訟に参加する場合の規定であるが、本件のように控訴人が参加人として右第七十一条の要件を具備する限り当事者一方である原審被告である被控訴組合のみに対して請求を為し原審原告である被控訴会社に対し訴訟費用の一部負担以外に何等の請求をしないからといつて右訴訟参加を同法条による訴訟参加として不適法であるということができないし、(昭和九年(オ)第七三六号隠居無効確認請求事件昭和九年八月七日大審院第五民事部判決判例集一三巻一八号一五五九頁)、さらに当審において控訴人が新に原審において請求しなかつた原審原告である被控訴会社に対し前記のような請求を為すも何等不適法なものということができないものと解され、さらに前記のような本件当事者参加訴訟にあつては、三当事者間相互の争は矛盾牴触することなく解決せらるべき必要があるので民事訴訟法第七十一条において同法第六十二条の必要的共同訴訟の特則を準用しているのであるから被告である被控訴組合を相手方とする参加人としての控訴人及び被告である被控訴組合を相手方とする原告としての被控訴会社がともに敗訴し参加人である控訴人のみが控訴した場合と雖も前記民事訴訟法第六十二条第二項の準用によりその他の各当事者に対してもその効力を生じ右当事者間に存する争は全部控訴審である当審に繋属し当審の審理の対象となるものというべく(この場合控訴人の表示に従い原審原告である被控訴会社を被控訴人とするも原審における原告である被控訴会社と原審における被告である被控訴組合との争がそのまゝ当審に移審されるので被控訴会社が被控訴組合に対し原審におけると同様の請求を為すも何等不適法ということができない)従つて、被控訴会社が敗訴の原審判決に対し控訴の申立をすることなく控訴期間を徒過したとしても右当事者間の原審判決が確定したものということはできない。従つてまた右原審判決が確定したことを前提として控訴人主張の改正前の国税徴収法第二十三条の一による差押を無効無益とすることも理由のないものといわなければならない。この点に関する被控訴組合の所論は到底これを採用することができない。その援用の判例は本件に適切でない。

次に控訴人並びに被控訴会社は被控訴会社が被控訴組合に対し金二百四十万円の預金債権を有する旨主張し被控訴組合はこれを抗争するのでこれについて判断する。

成立に争のない甲第二ないし第四号証、丙第五号証の一、丙第十号証、原審並びに当審証人衛藤力、同岡田与三郎の各証言によりその成立を認めうる甲第一号証の一、二、当審証人古田文治の証言によりその成立を認めうる丙第五号証の二、原審証人盤若正弘、同岡田与三郎(後記措信しない部分を除く)、原審並びに当審証人衛藤力、同瀬川孝一、(後記措信しない部分を除く)当審証人中宮辰(後記措信しない部分を除く)を綜合すれば次のような事実が認められる。

一、被控訴会社が昭和二十九年一月頃訴外日本専売公社金沢地方局の食堂新設その他の工事を請負い、訴外東日本建設業保証株式会社(以下単に保証会社と略称する)の保証により右工事代金の前払金として支払われた金千三百万円を訴外株式会社富士銀行富山支店(以下単に富士銀行富山支店と略称する)に預託していたが、右前払金を労務費及び経費以外の資材費等として払出すには、右保証会社並びに富士銀行との間に、被控訴会社より使途内訳、及び証明資料を添えて富士銀行富山支店に払出の請求を為すこと、富士銀行富山支店は支払先の当座預金に振替るかまたは支払先宛の記名式銀行小切手を被控訴会社に交付することの定めがなされていたこと、

二、被控訴会社代表者北口末男は昭和二十九年三月六日三興物産(三興物産株式会社以下同じ)から代理権を授与されていた被控訴組合(当時平和信用組合)の代表者(副組合長)である訴外中宮辰及び同組合の事務員である訴外岡田与三郎との間に右工事資材の丸鋼約百三十七瓩を最終履行期日昭和二十九年三月二十三日として代金約金四百九十五万円で買受ける旨の契約を締結し、被控訴会社において右代金の支払資金として金二百四十万円を被控訴組合へ当座預金として預入れ、三興物産より現品の現場搬入検収済後、被控訴会社振出の小切手を以てその都度該代金を支払うことを特約し、他方被控訴組合代表者中宮辰との間に被控訴会社は三興物産に対する右代金支払資金として金二百四十万円を当座預金で被控訴組合に預入れ右代金支払には被控訴会社振出の小切手を以てすることを約したこと、同年同月八日被控訴会社代表者北口末男は被控訴組合において同組合代表者中宮辰及び同事務員岡田与三郎に対し前記約定により預入れるべき分は保証会社並びに預託銀行との関係で富士銀行富山支店振出、受取人三興物産なる記名式小切手を以てする旨申入れたところ、右中宮並びに岡田は同人等が右小切手の受取人(名宛人)である三興物産より代理権を授与されその裏書の容易であることからこれを承諾し、右小切手を以て被控訴会社の当座預金とすることを確約したので、右北口は富士銀行富山支店振出、受取人三興物産、金額金二百四十万円の小切手一通を被控訴会社会計課長衛藤力を介して右中宮に交付したこと、右中宮は右小切手の交付を受けるとともに被控訴会社分として金二百四十万円入金の当座勘定振込票、当座勘定元帳写、及び小切手帳を交付したこと、被控訴組合は右小切手に三興物産の裏書を経た上これを訴外三井銀行金沢支店に、同支店はさらに訴外住友銀行富山支店に順次取立委任し同年三月十一日頃右小切手金を取立て現金化したこと。

成立に争のない乙第一ないし第三号証の各記載、原審証人前田進、同広瀬毅一、同金井孝雄、原審並びに当審証人岡田与三郎、同中宮辰、同瀬川孝一の各証言中右認定に牴触する部分は前項各証拠に照らし容易に信用しがたい。ほかに右認定を覆えすに足る証拠がない。

以上の認定事実によれば右小切手の取立により現金が被控訴組合に受け入れられると同時に被控訴会社は被控訴組合に対して約旨に従い右金額を目的とする預金債権を取得したものと云わなければならない。この判断に反する被控訴組合の代理人の主張は採用することができない。

そして、成立に争のない甲第四号証、丙第十号証、前掲証人衛藤力、同盤若正弘の各証言を綜合すれば、被控訴会社は三興物産の契約不履行を事由に前記鋼材の売買契約を解除すると共に昭和二十九年四月五日被控訴組合に対し前記預金債権金二百四十万円の返還を請求したが、同組合はこれに応じなかつたことが認められる。ほかに右認定を左右するに足る証拠がない。

そうだとすれば、被控訴組合は右預金二百四十万円については右請求を受けた日の翌日から遅滞の責に任ずべきものといわなければならず、被控訴組合は被控訴会社に対し右預金二百四十万円及びこれに対する右請求を受けた日の翌日である昭和二十九年四月六日以降完済に至るまで商法所定年六分(被控訴組合は金銭の預入を受けることを業とするものであることは本件口頭弁論の全趣旨により認められるから本件行為は商行為と推定される)の割合による遅延損害金の債務を負担するものということができる。

次に、控訴人は右預金債権並びに遅延損害金を国税徴収法により差押えた旨主張するのでこれについて判断する。

成立に争のない丙第一、二号証によれば、控訴人は被控訴会社に対し昭和三十年六月十六日現在滞納税額合計金三百七十五万八千九百六十三円の債権を有すること、控訴人は右徴収のため昭和三十年十月十六日被控訴会社の被控訴組合に対して有する前記預金債権金二百四十万円及びこれに対する昭和二十九年六月六日以降完済に至るまでの損害金を差押えその旨、同日付債権差押通知書を以て同日被控訴組合に通知したことが認められる。

ほかに右認定を左右するに足る証拠がない。

してみれば、控訴人は当時施行されていた改正前の国税徴収法第二十三条の一(現行国税徴収法第六十二条)により右差押後、右差押の範囲内の控訴人主張の右預金債権金二百四十万円及びこれに対する昭和二十九年六月八日以降完済に至るまで前記年六分の割合による遅延損害金の取立権を取得し、被控訴会社に代つて債権者の立場でその権利を行使しうるに至つたものというべきであるから被控訴組合に対しこれが支払を求め並びに被控訴会社に対し右預金債権金二百四十万円の取立権のないことの確認を求める(この確認の利益については被控訴会社が右主張を争つていることがその答弁自体により明白であるからこれを認めることができる)本訴請求は正当であるといわなければならない。

被控訴会社は被控訴組合に対し前記説示のとおり右預金二百四十万円及びこれに対する昭和二十九年四月六日以降完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の債権を有するも前記認定のように控訴人の差押によりその差押を受けた範囲において右債権の取立権がないものというべきも、その差押を受けない部分すなわち右預金二百四十万円に対する昭和二十九年四月六日より同年六月五日まで年六分の割合による遅延損害金についてはその権利を行使しうるものと解されるから、被控訴会社の被控訴組合に対する本訴請求中右認定の限度においてこれを正当として認容するもその余は失当として棄却を免れない。

よつて右と相異する原判決はその限度においてこれを変更し、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小山市次 広瀬友信 高沢新七)

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